
明後日の水曜日(2/26)、文京区民のためのシビックシアター☆トークショーで、ヴィスコンティの『若者のすべて』についてお話します。3年ほど前に朝カル新宿でもお話ししたのですが、今回は奇しくも今年8月18日に訃報が入ったアラン・ドロンを偲ぶ上映となってしまいました。
ヴィスコンティの『若者のすべて』は1960年の作品ですから、ルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』と同じ年の公開作品になります。クレマンの作品でドロンはあのトム・リプリーを演じて世界的に知られることになります。そしてこのヴィスコンティの名作に出演するとその名声を確固としたものにするわけです。
イタリア時代の始まりでもありました。『若者のすべて』に続いて1961年には、クレマン監督の『生きる喜び』(Che gioia vivere)をイタリアを舞台に撮影すると、1962年にはミケランジェロ・アントニオーニの『太陽はひとりぼっち』でモニカ・ヴィッティと共演、さらに1963年には再びヴィスコンティに呼ばれて『山猫』のタンクレーディ役に抜擢されます。
じつはヴィスコンティは1961年にアラン・ドロンとロミー・シュナイダーを抜擢して、英国ルネサンス期のイギリスの劇作家ジョン・フォード作による舞台作品『あわれ彼女は娼婦』('Tis Pity She's a Whore)をフランス語で演出しているのです。そういう意味でドロンは、ヴィスコンティによって舞台役者として仕込まれたといえるのかもしれません。
ドロン自身もイタリア映画の名監督たちには感謝を表明していますし、イタリア語でのインタビューにも応じるほど言葉にも通じています。ただし映画のセリフは吹き替えです。さすがに『若者のすべて』の登場人物ロッコのルカニアなまりのイタリア語のセリフもらにシチリアの貴族タンクレーディのセリフも、イタリア人の俳優が吹き替えています。
そんなアラン・ドロンが『若者のすべて』で演じたロッコは、イタリア南部の貧しさから抜け出し、ミラノで未来を開こうとする兄弟たちのなかで最も純朴で、疑うことを知らない善人なのですが、それゆえに悲劇的な運命をたどることになります。いわばそれは天使のような男なのですが、ヴィスコンティはドロンの美しい若さをうまく利用して、そんなロッコをフィルムに定着させることになるのです。
その後のアラン・ドロンの役は、美男なのだけれどどこかに野生的な危うさを持っていることを考えれば、『若者のすべて』でドロンが演じたロッコの純真な美しさは、その悲劇の運命のなかで輝きながら、ドロンのキャリアのなかでも唯一のものといえるのではないでしょうか。
共演はアニー・ジラルド、レナート・サルヴァトーリ、クラウディア・カルディナーレなどの豪華キャスト。どこか古典的でありながら現代の社会問題を浮かび上がらせてゆく名作について、作品の背後にあるものにふれながら、ご紹介できればと思っています。
紹介ホームページはこちら。無料ですが、文京区の方にかぎるとのこと。しかも残念ながらすでに締め切りになっているようです。 https://www.b-academy.jp/manabi/062410.html
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